歴史・年表

NV1誕生とGeForce進化の軌跡

1995年に登場したNV1の低迷から、1999年にGeForceとして成功を収めるまでの進化を示した棒グラフと上昇矢印を含むタイムライン図

「GeForceの始まりはどこか?」という問いに、意外と答えられる人は少ないかもしれません。実は、NVIDIAが最初に手がけたGPUは「GeForce」ではなく、「NV1」という失敗に終わったチップでした。しかしこの失敗こそが、現在のNVIDIAを形作った重要な転機だったのです。本記事では、NV1の誕生からRIVA 128、そしてGeForceへ至る道を、技術と戦略の両面から追っていきます。

NV1とは何か?用語の意味と特徴を解説

NV1(NVIDIA NV1)は、1995年にNVIDIAが開発した初のマルチメディアアクセラレータチップで、正式名称は「STG2000」。SGS‑Thomsonが製造し、Diamond Multimediaが「Diamond Edge 3D」として販売しました。

最大の特徴は、従来の「三角形ポリゴン」ではなく「曲面」を基本とする描画技術「Quadratic Texture Mapping(QTM)」を採用したことです。この方式により、リアルで滑らかな曲面描写が可能になると期待されました。

さらに、2D/3Dグラフィック描画、オーディオ処理、セガSATURN互換ジョイパッド入力まで、あらゆる機能を1チップに統合していた点も革新的でした。

出典:Wikipedia

なぜ生まれ、なぜ失敗したのか?NV1登場の背景

NV1が登場した背景には、1990年代半ばのマルチメディアブームと、NVIDIAの「すべてを1つに」という理想がありました。

1993年に設立されたばかりのNVIDIAは、大手に勝つには新しい価値提案が必要だと考えていました。そこで、セガとの提携を得て、セガSATURN互換コントローラ入力とゲーム移植を前提としたNV1の開発に踏み切ったのです。

しかし、同時期にMicrosoftが推進したDirect3Dは、QTMではなく「三角形ポリゴン」による描画方式を標準化。結果としてNV1はDirectXと非互換となり、ソフトウェアの対応も進まず、販売は伸び悩みました。

出典:IEEE Computer Society

RIVA 128からGeForceへ──反省を活かした再起戦略

NV1の失敗から学んだNVIDIAは、次世代の「NV2」開発を中止。代わりに、業界標準に則った三角形ポリゴン方式に対応する「RIVA 128(コード名:NV3)」を1997年に投入します。

このRIVA 128は、Direct3DとOpenGLに完全対応し、高い3D描写性能を実現。このヒットにより、NVIDIAは倒産の危機から脱し、再びGPU業界での存在感を高めました。

その後1999年には、「GeForce 256(NV10)」を投入。T&L(Transform & Lighting)を世界で初めてハードウェア実装したことで「世界初のGPU」として位置づけられ、現在に続くGeForceブランドの礎を築きました。

出典:Medium

NV1と他社GPUの違い──競合との比較視点

当時の競合GPUとしては、S3 ViRGE、Matrox Mystique、ATI Rage、Rendition Véritéなどがありました。これらはすべて三角形ポリゴンベースであり、DirectX対応を前提とした設計でした。

一方、NV1はQTMという独自技術にこだわり、結果として主流から外れる形に。開発者やゲーム会社からの支持を得られず、市場からは次第に姿を消しました。

ただし、NV1の構想に見られる「すべてを統合する」という発想は、後のCUDAやNVIDIA NIMにまで通じる理念ともいえるでしょう。

出典:Tom’s Hardware

NVIDIAの危機と転換点──投資家視点での意義

NV1の不振により、NVIDIAは深刻な経営危機に陥りました。このとき支えとなったのが、セガからの約500万ドルの投資です。これは創業間もないNVIDIAの命綱とも言える資金でした。

RIVA 128のヒットを経て、1999年にはNASDAQに上場(IPO)。現在の時価総額200兆円超を誇るNVIDIAの最初の転換点が、まさにこのNV1から始まった「失敗→学習→再起」のサイクルでした。

出典:Wikipedia

FAQ|NV1に関するよくある質問

NV1はなぜ失敗したのですか?

主な理由は、MicrosoftがDirect3Dで三角形ポリゴン方式を標準化したため。NV1が採用したQTMは互換性がなく、ゲーム開発が進まず売れ行きが悪化しました。

NV1は現在でも入手できますか?

オークションサイトなどで稀に出回りますが、レアなコレクターアイテムとなっており実用性はほぼありません。

NV1の技術は今も使われていますか?

直接の技術継承はありませんが、「統合型チップ」や「独自プログラミングモデル」への思想は、後のCUDAやAIアクセラレータにも影響を与えています。

まとめ|NV1から始まるNVIDIAの物語

NV1は失敗作だったかもしれません。しかし、この失敗を通じてNVIDIAは学び、RIVA 128やGeForceという新たな成功への道を切り開きました。

そして今、AI・自動運転・スーパーコンピューティングと領域を広げるNVIDIA。その根底には、「NV1から始まった挑戦と進化の精神」が息づいています。

この記事が、NVIDIAという企業をより深く理解するきっかけになれば幸いです。

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NVIDIAウォッチ編集部
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