「GeForceの始まりはどこか?」という問いに、意外と答えられる人は少ないかもしれません。実は、NVIDIAが最初に手がけたGPUは「GeForce」ではなく、「NV1」という失敗に終わったチップでした。しかしこの失敗こそが、現在のNVIDIAを形作った重要な転機だったのです。本記事では、NV1の誕生からRIVA 128、そしてGeForceへ至る道を、技術と戦略の両面から追っていきます。
NV1とは何か?用語の意味と特徴を解説
NV1(NVIDIA NV1)は、1995年にNVIDIAが開発した初のマルチメディアアクセラレータチップで、正式名称は「STG2000」。SGS‑Thomsonが製造し、Diamond Multimediaが「Diamond Edge 3D」として販売しました。
最大の特徴は、従来の「三角形ポリゴン」ではなく「曲面」を基本とする描画技術「Quadratic Texture Mapping(QTM)」を採用したことです。この方式により、リアルで滑らかな曲面描写が可能になると期待されました。
さらに、2D/3Dグラフィック描画、オーディオ処理、セガSATURN互換ジョイパッド入力まで、あらゆる機能を1チップに統合していた点も革新的でした。
なぜ生まれ、なぜ失敗したのか?NV1登場の背景
NV1が登場した背景には、1990年代半ばのマルチメディアブームと、NVIDIAの「すべてを1つに」という理想がありました。
1993年に設立されたばかりのNVIDIAは、大手に勝つには新しい価値提案が必要だと考えていました。そこで、セガとの提携を得て、セガSATURN互換コントローラ入力とゲーム移植を前提としたNV1の開発に踏み切ったのです。
しかし、同時期にMicrosoftが推進したDirect3Dは、QTMではなく「三角形ポリゴン」による描画方式を標準化。結果としてNV1はDirectXと非互換となり、ソフトウェアの対応も進まず、販売は伸び悩みました。
RIVA 128からGeForceへ──反省を活かした再起戦略
NV1の失敗から学んだNVIDIAは、次世代の「NV2」開発を中止。代わりに、業界標準に則った三角形ポリゴン方式に対応する「RIVA 128(コード名:NV3)」を1997年に投入します。
このRIVA 128は、Direct3DとOpenGLに完全対応し、高い3D描写性能を実現。このヒットにより、NVIDIAは倒産の危機から脱し、再びGPU業界での存在感を高めました。
その後1999年には、「GeForce 256(NV10)」を投入。T&L(Transform & Lighting)を世界で初めてハードウェア実装したことで「世界初のGPU」として位置づけられ、現在に続くGeForceブランドの礎を築きました。
NV1と他社GPUの違い──競合との比較視点
当時の競合GPUとしては、S3 ViRGE、Matrox Mystique、ATI Rage、Rendition Véritéなどがありました。これらはすべて三角形ポリゴンベースであり、DirectX対応を前提とした設計でした。
一方、NV1はQTMという独自技術にこだわり、結果として主流から外れる形に。開発者やゲーム会社からの支持を得られず、市場からは次第に姿を消しました。
ただし、NV1の構想に見られる「すべてを統合する」という発想は、後のCUDAやNVIDIA NIMにまで通じる理念ともいえるでしょう。
NVIDIAの危機と転換点──投資家視点での意義
NV1の不振により、NVIDIAは深刻な経営危機に陥りました。このとき支えとなったのが、セガからの約500万ドルの投資です。これは創業間もないNVIDIAの命綱とも言える資金でした。
RIVA 128のヒットを経て、1999年にはNASDAQに上場(IPO)。現在の時価総額200兆円超を誇るNVIDIAの最初の転換点が、まさにこのNV1から始まった「失敗→学習→再起」のサイクルでした。
FAQ|NV1に関するよくある質問
NV1はなぜ失敗したのですか?
主な理由は、MicrosoftがDirect3Dで三角形ポリゴン方式を標準化したため。NV1が採用したQTMは互換性がなく、ゲーム開発が進まず売れ行きが悪化しました。
NV1は現在でも入手できますか?
オークションサイトなどで稀に出回りますが、レアなコレクターアイテムとなっており実用性はほぼありません。
NV1の技術は今も使われていますか?
直接の技術継承はありませんが、「統合型チップ」や「独自プログラミングモデル」への思想は、後のCUDAやAIアクセラレータにも影響を与えています。
まとめ|NV1から始まるNVIDIAの物語
NV1は失敗作だったかもしれません。しかし、この失敗を通じてNVIDIAは学び、RIVA 128やGeForceという新たな成功への道を切り開きました。
そして今、AI・自動運転・スーパーコンピューティングと領域を広げるNVIDIA。その根底には、「NV1から始まった挑戦と進化の精神」が息づいています。
この記事が、NVIDIAという企業をより深く理解するきっかけになれば幸いです。