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NVIDIA×TSMC以外の製造パートナーは?供給網と将来戦略を解説

青い世界地図背景に、NVIDIAからTSMCへ矢印が伸び、他のパートナー候補へ分岐する構成を示した図。

エヌビディア(NVIDIA)はAI時代を牽引する半導体企業ですが、実は自社でチップを製造していません。
では、その生産を担うのは誰なのか? そして、TSMC以外のパートナーは存在するのでしょうか。
本記事では、NVIDIAのサプライチェーン構造をわかりやすく解説し、今後の製造戦略の行方を読み解きます。

なぜ「TSMC以外の製造パートナー」が注目されるのか

NVIDIAは「ファブレス企業」と呼ばれ、自社で半導体を生産せず、外部のファウンドリに委託しています。
現在、その大半を担うのが台湾のTSMCです。
しかし、TSMCへの依存度が高いことは、供給リスクや地政学的リスクを伴うため、製造パートナーの多様化が注目されています。

たとえば、台湾有事の懸念や、米中対立による輸出規制などが背景にあります。
そのため、NVIDIAは「製造の分散」「地域の多角化」を模索し始めています。

用語の整理|ファブレスとファウンドリの違い

まずは基本用語を押さえましょう。
ファブレス(Fabless)とは、製造設備を持たずに半導体設計のみを行う企業のことです。
一方、ファウンドリ(Foundry)は、設計データをもとにチップを製造する専門企業を指します。

NVIDIAはファブレス企業であり、実際の製造をTSMCやサムスンなどに委託しています。
こうした委託構造は「製造委託モデル」と呼ばれ、現在の半導体業界の主流となっています。

歴史背景|NVIDIAとTSMCの関係はいつ始まった?

NVIDIAとTSMCの協力関係は20年以上にわたり続いています。
初期のGeForceシリーズから最新のHopper/Blackwell世代まで、主要GPUはほぼTSMC製です。
特にAIチップ「H100」や「B100」は、TSMCの5nmおよび4nmプロセスで製造されています。

この関係の強さから、ジェンスン・フアンCEOは「TSMC以外に選択肢はない」と発言したこともあります。
しかし同時に、米国や韓国での新たな生産体制構築にも動き出しており、依存からの脱却を図ろうとしています。

出典:PR Newswire(2025年5月)

TSMC以外の製造パートナー候補

1. Samsung Foundry(韓国)

韓国のサムスン電子は、NVIDIAにとって最も有力な代替パートナー候補です。
2025年7月時点で、サムスンはNVIDIA向けに2nmプロセス受注を狙っていると報じられています。
また、2.5D/3Dパッケージ技術の分野でも受注実績を拡大中です。

ただし、サムスンの課題は歩留まり率(良品率)の低さ。
製造の安定性ではTSMCに劣る面があり、実用レベルでの大量生産には課題が残ります。

図1:ファウンドリ市場シェア(出典:PatentPC 2024年第3四半期)
企業名 市場シェア
TSMC 64.9%
Samsung Foundry 9.3%
Intel Foundry 6.2%
その他(GlobalFoundriesなど) 19.6%

傾向:TSMCの独占状態が続くが、サムスンが次世代ノードで攻勢を強めている。

2. 米国内製造パートナー(Foxconn・Amkor・Wistron)

NVIDIAは2025年、米国内でのAI半導体製造に総額5,000億ドルの投資計画を発表しました。
この計画では、フォックスコン(Foxconn)やウィストロン(Wistron)などのEMS企業が組立工程を担います。
また、パッケージングでは米Amkorや台湾SPILが候補に挙げられています。

これにより、NVIDIAは台湾中心だった供給網を北米へ分散させ、政治的リスクを緩和しようとしています。
出典:Supply Chain Dive(2025年4月)

3. メモリ・パッケージ系パートナー(SK Hynixなど)

GPU製造に欠かせないのがメモリ供給です。
NVIDIAのAIチップに搭載されるHBM(高帯域メモリ)は、主に韓国のSK Hynixとサムスン電子が提供しています。
特にSK Hynixは、AIサーバー向けHBM3を大量供給し、NVIDIAのデータセンター向けGPUを支えています。

出典:KraneShares(2025年3月)

製造分散のメリットとリスク

メリット

  • 台湾リスクの軽減:地域集中による供給停止リスクを回避。
  • コスト削減効果:サムスンはTSMC比で20〜30%安価との報道。
  • 政策的支援:米CHIPS法による補助金の活用が可能。

出典:TrendForce(2024年10月)

デメリット

  • 技術格差:TSMCのCoWoS技術が他社に比べ圧倒的。
  • 歩留まり率の問題:サムスンは安定量産に課題。
  • 品質管理コスト増:拠点分散により管理が複雑化。

競合比較|AMD・Intelとの違い

競合のAMDも同様にTSMCへ委託していますが、4nmプロセスを採用するなど差別化を進めています。
一方のIntelは、自社製造と外販の両立を目指す「IDM 2.0」戦略を推進中です。
NVIDIAは設計力に集中し、製造は最適なパートナーを都度選ぶ柔軟戦略を採用しています。

図2:主要GPUメーカーの製造体制比較(出典:各社発表資料 2025)
企業名 主な製造パートナー 特徴
NVIDIA TSMC/Samsung/Amkor ファブレス・設計特化
AMD TSMC ファブレス・コスト重視
Intel 自社+外部委託 IDMモデル・技術主導

傾向:ファブレス化が主流だが、NVIDIAは供給網分散で独自の強みを構築。

地政学リスクと政策の影響

TSMCが集中する台湾は地政学的リスクを抱えています。
そのため、NVIDIAは米国や韓国への製造移管を進め、供給網を強化しています。
アメリカではCHIPS法による支援を受け、テキサスやアリゾナ州に新拠点が建設中です。

私は、この動きが「単なるリスク回避」ではなく「AIインフラを国家レベルで支える戦略転換」だと感じています。
製造と設計の距離を縮めることが、次世代GPUの開発スピードを高める鍵になるでしょう。

出典:Business Insider(2025年4月)

将来見通し|2nm世代とサプライチェーンの再構築

次世代GPUでは、2nmクラスの製造技術が焦点になります。
TSMCとサムスンの競争は激化しており、NVIDIAがどちらを選ぶかが注目点です。
サムスンが歩留まりを改善できれば、TSMC一極体制に風穴を開ける可能性があります。

一方で、NVIDIAは米国内製造を通じて「設計と生産の統合」を強化する構えです。
この分散戦略が成功すれば、同社はAI半導体の安定供給で一段上の競争力を獲得するでしょう。

まとめ|製造分散はリスク回避と成長戦略の両立

TSMC以外の製造パートナー拡大は、単なるリスクヘッジではありません。
NVIDIAはサムスンや米国勢との協業を通じて、グローバル供給網を再構築しつつあります。
製造パートナーの多様化は、AI時代における持続的成長の条件ともいえるでしょう。

ただし、TSMCの技術力と信頼性はいまだ圧倒的です。
「TSMC依存からの脱却」は長期戦になると私は考えます。
今後の焦点は、サムスンがどこまで追いつけるか、そしてNVIDIAがどこまで製造を内製化できるかにあります。

参考文献

よくある質問(FAQ)

Q1. なぜNVIDIAはTSMCに依存しているのですか?

TSMCは世界トップレベルの微細プロセス技術を持ち、NVIDIAが求める5nmや4nmなどの先端製造に唯一対応しています。
また、高性能パッケージ技術「CoWoS」でも他社を大きくリードしており、品質・歩留まり・供給安定性の面でTSMCが最適と判断されています。

Q2. サムスンがNVIDIAの製造を引き受ける可能性はありますか?

あります。サムスンは2025年以降、2nmプロセスでのGPU製造受注を狙っています。
ただし、現時点ではTSMCとの技術格差や歩留まりの問題があり、大量生産体制の確立が課題です。
成功すれば、NVIDIAの供給網多様化に大きく貢献すると見られます。

Q3. 製造パートナーの多様化はNVIDIAの株価に影響しますか?

短期的には影響は限定的ですが、中長期的にはサプライチェーン安定性の強化として好材料です。
製造コストの低下や供給リスクの分散が実現すれば、利益率の改善や投資家の信頼性向上につながるでしょう。
特にAI需要が拡大する中で、安定供給を確保できることは競争優位の源泉になります。


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