2025年11月第3週(米国時間 11月15日〜11月22日)は、NVIDIAにとって大きな節目となる1週間でした。まず、2026年度第3四半期決算が発表されました。さらに、AnthropicとMicrosoftを巻き込んだ大型提携も公表されました。また、AIサーバー用メモリをLPDDRへ切り替える動きや、日本・欧州でのHPC案件も相次ぎました。本記事では、こうした材料を整理しつつ、投資家視点で今後のチャンスとリスクを読み解きます。
今週の注目NVIDIAニュース7選
1.2026年度第3四半期決算が過去最高水準に到達
まず今週最大の材料は、NVIDIAの2026年度第3四半期決算です。売上はおよそ570億ドルとなり、前年同期比では大きく伸びました。特にデータセンター事業が売上の大半を占めています。粗利率も70%台前半を維持し、高い収益性を改めて示しました。ガイダンスも市場予想をおおむね上回る水準で、AIインフラ需要の強さが数字に表れた内容と言えます。
一方で、株価は決算直後に大きく上昇したわけではありません。すでに高い期待が織り込まれていたこともあり、好決算ながら短期的なサプライズは限定的でした。ただし、中長期で見れば、データセンター売上と高い粗利率は、持続的な成長ストーリーを強く裏づける材料です。決算全体としては「期待通りかやや上」で、強気シナリオを維持する内容と整理できます。
株価への影響:強・上昇(データセンター売上と粗利率の高さが、中長期の成長期待を下支え)
主なソース:NVIDIA Newsroom(決算リリース) / Reuters(市場反応)
なお、決算の数字やセグメント別の詳しい分析は、既存記事の「NVIDIA決算速報2025年11月|AIデータセンター急成長」でも整理しています。より細かいグラフやセグメント構成を確認したい方は、あわせて参考にしてください。
2.Microsoft・NVIDIA・Anthropicの三者提携と最大150億ドル投資
次に大きなインパクトを持つのが、Microsoft・NVIDIA・Anthropicによる戦略的提携です。AnthropicはAzure上のコンピュートリソースに300億ドル相当をコミットします。これに加え、NVIDIAとMicrosoftが合計で最大150億ドル規模の投資を行う枠組みも示されました。Claudeシリーズは、NVIDIAのGrace BlackwellやVera Rubinシステム上で本格展開される見通しです。
この提携は、NVIDIAにとって「AIインフラ需要の長期契約」を確保する意味合いが強いです。まず、クラウド大手と有力AIスタートアップが同じ方向を向くことで、NVIDIAスタックを前提としたアプリケーションが増えます。また、AnthropicがAzureにコミットすることは、NVIDIA GPUが大規模に使われ続ける前提条件にもなります。短期の売上だけでなく、数年単位でのGPU需要を可視化するものとして評価できます。
株価への影響:強・上昇(大型投資と長期コンピュート契約により、AI GPU需要の継続性がより明確になった)
主なソース:Microsoft公式ブログ / Reuters / Bloomberg
3.AIサーバーのメモリをLPDDRへ転換、サーバーメモリ価格は2倍の可能性
三つ目の注目ニュースは、NVIDIAがAIサーバーでスマホ向けLPDDRメモリを本格採用するという報道です。従来のDDR5と比べて、LPDDRは省電力性が高く、同じ熱設計でより多くのメモリ帯域を確保できます。AIモデルの巨大化が続く中で、この方向転換は合理的な選択と言えます。
しかし、その一方で副作用も指摘されています。NVIDIAによるLPDDR需要が急増することで、サーバー向けメモリ市場全体の価格が2026年末までに2倍になる可能性があると、調査会社は予測しています。クラウド各社にとっては、AIインフラコストの上昇要因です。結果として、NVIDIAプラットフォームの性能優位と、省電力のメリットは高まりますが、一部顧客にとっては投資判断のハードルが上がる要素にもなります。
株価への影響:強・中立(NVIDIAの技術優位は高まる一方で、インフラコスト上昇が需要のブレーキにもなり得る)
主なソース:Reuters / Yahoo Finance
4.NVIDIAと理化学研究所、新スーパーコンピュータ群で協業
四つ目は、日本の理化学研究所(RIKEN)との協業です。新たに構築されるスーパーコンピュータ群で、Blackwell世代GPUやGrace CPU、NVQLinkなどが採用されます。AIと伝統的な数値計算、さらに量子コンピューティングを組み合わせたハイブリッド環境を狙う構成です。
こうした公的研究機関での大規模案件は、まず導入規模が大きくなりやすいです。また、一度採用されると更新サイクルも長く、継続的な需要につながります。さらに、日本の旗艦級研究機関での採用実績は、他国の研究機関や政府案件にも波及しやすいという特徴があります。そのため、金額以上に「実績」「信頼性」という意味で、NVIDIAにとって戦略的なニュースと位置づけられます。
株価への影響:中・上昇(長期運用が前提のHPC案件で、安定した高付加価値需要を積み上げられる)
主なソース:NVIDIA Newsroom
5.世界有数のスーパーコンピューティングセンターがNVQLinkを採用
五つ目は、新アーキテクチャ「NVQLink」の発表と、その採用広がりです。NVQLinkは、Grace Blackwellプラットフォームと量子プロセッサを高帯域で接続するためのインターコネクトです。世界各地の主要スーパーコンピューティングセンターが、この仕組みを採用する計画を示しました。量子計算とGPU計算を組み合わせる「ハイブリッドHPC」の土台となる技術です。
将来、量子コンピューティングがより実用的になれば、こうしたハイブリッド構成は標準的な選択肢になる可能性があります。そのとき、インターコネクトの事実上の標準を握っている企業は、大きな交渉力を持ちます。現在の段階では、売上インパクトは限定的かもしれません。それでも、長期の技術ロードマップという観点では、NVIDIAが先手を打っている印象が強いニュースです。
株価への影響:中・上昇(量子×GPU時代を見据えた標準候補としてのポジション取りを進めた)
主なソース:NVIDIA Newsroom
6.AIファクトリー向けデータセンタープロセッサ「BlueField-4」正式発表
六つ目は、AIファクトリー向けデータセンタープロセッサ「BlueField-4」の正式ローンチです。BlueFieldシリーズは、GPUの周辺でネットワーク処理やセキュリティ、ストレージ制御を担うDPUです。今回の世代では、AIファクトリー全体の「OS」に近い役割を担うコンセプトが強調されました。CoreWeave、Dell、Oracle Cloud、Palo Alto Networksなど、多数のパートナーが対応プラットフォームを開発する計画です。
これまでNVIDIAの収益の中心はGPUでした。しかし、今後はDPUやネットワーク機器、ソフトウェアサブスクリプションなど、周辺領域からの収益も増えていく可能性があります。データセンター一棟あたりで見たときの「NVIDIAに支払われる金額」が増える構図です。その意味で、BlueField-4は売上の多角化とロックイン強化の両方を進める要石と見ることができます。
株価への影響:中・上昇(GPU依存からフルスタック戦略へと収益源を広げる布石)
主なソース:NVIDIA Newsroom(決算リリース内) / BlueField関連ブログ
7.物理AIとAIファクトリー戦略:Omniverse DSXやIndustrial AI Cloudの展開
最後の一つは、決算資料でまとめて紹介された「物理AI」とAIファクトリー戦略です。Omniverse DSXによるギガワット級AIファクトリー設計のリファレンス、Deutsche Telekomと構築するIndustrial AI Cloud、NokiaとのAI-RAN構想、IGX Thorによるエッジ側の物理AIなど、多数の施策が一気に示されました。
これらに共通するのは、GPUサーバー単体ではなく、工場や通信網、自動車、ロボットまで含めた「現実世界」全体をAIで最適化しようとする視点です。言い換えると、NVIDIAは単なる半導体メーカーから「AIインフラ企業」、さらには「AI工場の標準プロバイダー」へと変身しようとしています。この方向性は、既存記事の「NVIDIAのAI工場構想とは?」でも詳しく解説しています。週次ニュースとあわせて読むことで、中長期の投資ストーリーが立体的に見えてきます。
株価への影響:中・上昇(AIサーバーから産業全体のAIインフラへと収益機会を拡大する長期戦略が明確になった)
主なソース:NVIDIA Newsroom(決算リリース内ハイライト)
今週の株価反応と市場の評価
ここからは、今週の株価推移と市場評価を整理します。今週は決算と大型提携が重なったため、日々の値動きがやや荒い展開でした。決算発表直後の取引では買いと利益確定の売りがぶつかり、一時的にボラティリティが高まりました。その後は徐々に方向感を探る動きが続きました。
まず、決算内容そのものは、売上・利益・ガイダンスのいずれも市場予想を上回る強いものでした。そのため、根本的な成長ストーリーが崩れたわけではありません。一方で、AI関連銘柄全体に「期待先行ではないか」という警戒感が残っていることも事実です。高バリュエーションを意識した利益確定売りが出やすい地合いであることが、今週の値動きに反映された形です。
次に、Anthropicとの提携やHPC・量子関連のニュースは、中長期のポジティブ材料と受け止められました。ただし、これらは「数年単位で効いてくる」ストーリーであり、今すぐ来期の業績を大きく変えるものではありません。そのため、短期の株価に与える影響は限定的でした。それでも、機関投資家にとっては、NVIDIAの競争優位がさらに長期化するシグナルとして意識されたと考えられます。
また、LPDDRシフトによるメモリ価格高騰の可能性は、市場にとってやや複雑な材料です。NVIDIAのプラットフォームとしては、省電力と性能の両面で優位性が高まります。しかし、クラウド各社やAIスタートアップにとっては、インフラコスト上昇という負担にもなり得ます。このため、投資家の間では「長期的にはプラスだが、短期にはマージン圧力の要因になる可能性がある」といった評価も見られました。
総じて言えば、今週の株価は決算と提携という強い材料を織り込みつつも、「すでにかなり織り込まれている」という見方との綱引きでした。週を通してみると、株価はやや調整気味の動きとなりましたが、事業のファンダメンタルズはむしろ強化された印象です。短期のボラティリティをどう捉えるかは投資スタンス次第ですが、中長期の成長シナリオを重視する投資家にとっては、押し目局面として検討する余地もある1週間でした。
なお、より長いスパンでNVIDIA株の値動きを確認したい場合は、既存記事の「エヌビディア株価チャート徹底解説|10年の成長率と転換点」や、シナリオ別の「エヌビディア株価予測|短期・中期・長期シナリオを徹底解説」もあわせてチェックすると、今回の週次ニュースをより立体的に理解できます。また、先週までの流れは「NVIDIA速報|2025年11月第2週まとめ」で振り返ることができます。
よくある質問(FAQ)
NVIDIAの今週の決算は、株価にとって本当にプラスと言えますか?
結論から言うと、中長期の株価にとっては明確にプラス要因と考えられます。
なぜなら、売上と利益、そしてガイダンスの三つがそろって市場予想を上回り、AIデータセンター事業の成長が再確認できたからです。
一方で、短期では高バリュエーションに対する利益確定売りが出やすく、株価は必ずしも一方向には動きません。
例えば、今週も決算発表直後は乱高下しつつも、週を通してみるとやや調整気味の動きとなりました。
しかし、事業そのものの成長力はむしろ強化されています。
そのため、短期の値動きだけでなく、中長期の売上構成や粗利率のトレンドも合わせて見ることが重要です。
Anthropicとの提携は、どのくらい長期の投資テーマになりますか?
結論として、Anthropicとの提携は数年単位で効いてくる長期テーマと見るのが自然です。
理由は、AnthropicがAzureコンピュートに300億ドル相当をコミットしており、その多くがNVIDIA GPUベースで消化されると考えられるからです。
これは単発の案件ではなく、継続的なAIインフラ需要を意味します。
たとえば、既にOpenAIやMetaなども含め、主要AIプレーヤーはNVIDIA GPUを前提に大規模なモデルを動かしています。
Anthropicがこの流れに本格的に乗ることで、NVIDIAのエコシステム内に新たな大型ユーザーが固定化されるイメージです。
したがって、短期の売上インパクトは限定的でも、AIインフラの「標準ポジション」を固める意味で、中長期の評価には組み入れておきたいニュースと言えます。
LPDDRメモリへのシフトと価格高騰は、個人投資家にどう関係しますか?
結論から言えば、メモリ価格上昇はNVIDIAだけでなく、広くAI関連株のコスト構造に影響するため、投資判断の前提として押さえておくべきポイントです。
なぜなら、LPDDRへのシフトによってAIサーバーの電力効率や性能は向上しますが、同時にメモリ市場のタイト化を通じてインフラコストが上がるリスクがあるからです。
AIクラウド事業者のマージンが圧迫されれば、設備投資のペースに影響します。
例えば、メモリメーカー側には追い風となりやすい一方で、クラウド事業者や一部AIスタートアップにとっては投資負担増につながります。
その結果、銘柄ごとに「追い風」と「向かい風」が分かれる形になります。
そのため、NVIDIA単体を見るだけでなく、メモリメーカーやクラウド各社との関係も含めてポートフォリオ全体でリスクとリターンのバランスを考えることが大切です。