AI時代のデータ処理は「クラウド」と「HPC(高性能計算)」の境界を曖昧にしています。
この中心に立つのが、GPUの王者NVIDIAと、企業向けクラウドを支えるHewlett Packard Enterprise(HPE)です。
本記事では、両社の提携関係と技術戦略を初心者にもわかりやすく整理し、投資視点から今後の注目ポイントを解説します。
用語の意味と基本解説
NVIDIAは1993年に設立されたアメリカ・サンタクララ発の半導体企業で、GPU(画像処理装置)を軸にAI計算・ネットワーク・ソフトウェアまでを一体化した「フルスタックAI企業」へ進化しました。代表的なAI基盤はBlackwellアーキテクチャ(GB200/GB300)です。
一方、HPEは2015年にHPから分社したクラウド・HPC事業の専門企業です。テキサス州スプリングを拠点に、企業や研究機関向けにHPE GreenLakeやHPE Crayなどのプラットフォームを提供しています。
NVIDIAがAI半導体で世界を動かす「心臓部」だとすれば、HPEはそのAIを現場で動かす「器(インフラ)」の役割を担っています。
エヌビディアとHPEの技術・製品ポジション
両社は2024年6月に「NVIDIA AI Computing by HPE」を発表し、AI計算からデータ運用までを一括提供する新しい企業向けソリューションを開始しました。
中核となるのはHPE Private Cloud AI。これは、NVIDIAのAIソフトウェア群(NIM・AI Enterprise)とネットワーク技術(Quantum InfiniBand、Spectrum-X Ethernet)を、HPEのサーバー(ProLiant・Cray)およびGreenLakeクラウドに統合したものです。
| 比較項目 | NVIDIA | HPE |
|---|---|---|
| 主要製品 | Blackwell GB200 / GB300 | HPE Cray XD / ProLiant Gen12 |
| ネットワーク | Quantum IB / Spectrum-X | Aruba / Juniper統合 |
| AIソフト | AI Enterprise, NIM | OpsRamp, Private Cloud AI |
| 提供形態 | DGX Cloud(パブリック中心) | GreenLake(プライベート中心) |
この表から、NVIDIAは「GPU+ソフトによる性能最適化」、HPEは「企業導入のしやすさ」に軸を置いていることがわかります。特にHPEは、自社クラウド上にNVIDIA環境を事前構築し、導入期間を短縮する点で差別化しています。
提携・協力・競争の関係史
両社の関係は2024年に大きく変化しました。かつてHPEはCPU中心のHPC事業を得意とし、GPUは外部調達にとどまっていました。しかしAIブームの波に合わせ、NVIDIAと連携し「AIクラウド×HPC」を融合させる方向へ舵を切りました。
- 2024年3月:NVIDIAがBlackwellアーキテクチャを発表
- 2024年6月:HPE Discoverで共同ポートフォリオ発表
- 2025年6月:両社が提携拡張を発表、HPE Cray XDがNVIDIA新GPU対応へ
- 2025年10月:HPEがFY26ガイダンスでAI分野を成長ドライバーと明言
つまりHPEは、NVIDIAの技術を取り込みつつ「企業が自社データでAIを安全に運用する」プライベート環境を整備する役割を担っています。両社は競合というより、補完関係に近い構図を作りつつあります。
株価・業績の比較(投資家視点)
| 指標 | NVIDIA | HPE |
|---|---|---|
| 直近期 | 2026年度Q2(2025年8月27日) | 2025年度Q3(2025年9月3日) |
| 売上高 | $46.7B(+17%) | 成長14〜16%見通し |
| データセンター売上 | $41.1B | ― |
| 株価(2025/10/17) | $183.26 | $22.93 |
| 中期見通し | AI需要拡大で高成長維持 | FY26成長率5〜7% |
NVIDIAはAI半導体の需要急増で過去最高益を更新。一方HPEは安定した成長を見込むものの、ネットワーク部門の鈍化が懸念されています。
投資家視点では、NVIDIAは成長株、HPEは配当を重視するバリュー株に近い性質を持つといえます。
出典:Yahoo! Finance(NVIDIA株価)/出典:Yahoo! Finance(HPE株価)
強みと弱みの比較(SWOT分析)
| 項目 | NVIDIA | HPE |
|---|---|---|
| 強み | GPU〜ネットワーク〜ソフトの統合力 AI市場で圧倒的シェア |
HPC構築力と企業クラウド運用ノウハウ プライベートAI市場への適応力 |
| 弱み | サプライ集中・地政学リスク | 成長速度の鈍化・競合増加 |
| 機会 | 生成AI・自動運転分野の拡大 | 企業のAI内製化需要の高まり |
| 脅威 | 規制強化・価格競争 | ハード市場のコモディティ化 |
両社の方向性は異なりますが、共通点は「AIを現実のビジネスに落とし込む力」。特にHPEのPrivate Cloud AIは、NVIDIAのGPUパワーを企業内に安全に導入する“現実解”として注目されています。
今後の見通しと投資家が注目すべきポイント
筆者の考えとして、NVIDIAとHPEの関係は今後さらに「垂直統合的」になると見ています。
NVIDIAはAI演算性能を極限まで引き上げ、HPEはそれを企業環境で効率よく運用する仕組みを提供。つまり、両社が協力するほどAI導入のコストは下がり、市場は拡大していく構造です。
投資家は次の3点に注目すべきです。
- HPEのPrivate Cloud AIがどこまで市場浸透するか
- NVIDIA Blackwellの量産効果が業績に反映されるタイミング
- 両社のパートナー拡大(特にMicrosoft・Deloitteとの協業強化)
これらの動きが進めば、NVIDIAはデータセンター依存から脱却し、HPEはAIクラウド企業として再評価される可能性があります。
投資初心者でも、両社の提携がAI産業の「インフラ整備」を担っていると理解しておくことが重要です。
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FAQ
HPE Private Cloud AIとは何ですか?
HPEが提供する企業向けAI基盤で、NVIDIAのGPUとソフトウェアを統合し、プライベート環境で安全に生成AIを運用できるクラウドサービスです。
NVIDIA Blackwellとはどのような技術ですか?
BlackwellはNVIDIAの次世代AIチップシリーズで、従来比2倍以上の性能と電力効率を実現します。HPEのCrayサーバーにも順次搭載予定です。
AIクラウドとHPCの違いは?
AIクラウドは柔軟性・スケーラビリティを重視し、HPCは計算精度と速度を最優先します。NVIDIAとHPEは両者を融合する方向に進んでいます。
今後どちらの企業に投資すべきですか?
成長性を狙うならNVIDIA、安定と配当を重視するならHPEが候補です。ただし市場環境に応じた分散投資が基本です。
まとめ|AIクラウド×HPCが変える企業の未来
NVIDIAとHPEの連携は、単なる技術提携にとどまらず「AIインフラの再定義」といえます。
NVIDIAが生み出すGPU性能と、HPEが持つ企業導入力の組み合わせは、AIの民主化を加速させています。
私は今後、両社がAIクラウド市場で「パブリックとプライベートの橋渡し役」として存在感を高めていくと考えています。
投資家はこの提携を「AI産業の基盤づくり」と捉え、長期的視点で注目すべきです。
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